2009年7月22日(水)。楽しみにしていた日食の日だったが、東京は朝から雨のパラつく生憎の天気。午前9時から予定していた平井川での生物調査も一旦は中止にしたが、9時前には雨が上がり実施することにした。しかし肝心の太陽は雲の中に隠れたままだった。
この日の調査はトンボの羽化殻採集とカヤネズミの営巣調査。後半のカヤネズミ調査が始まったのは11時過ぎだった。草丈2メートルを越すカヤ原の中で草をかき分けながらカヤネズミの巣を探して歩き始めた。ものの10分経っただろうか、3~4メートル先のオギの葉の上を小さな動く影が! クリっとした黒い瞳と赤茶色の毛並み、長いシッポは間違えなくカヤネズミ。その小さな愛らしい姿は、生茂る葉の間を見え隠れしながら草から草へと移り、やがて見えなくなった。写真こそ撮れなかったが、滅多に見ることのできないカヤネズミの姿をはっきり目に焼き付けることができた。
それから15分程経ったときのこと。その日二つ目の巣を見つけて写真を撮っていると、巣の下の方からヒクヒクと動く鼻先が! 次の瞬間、なんとカヤネズミがスルッと巣から飛び出してきたのだ! あっと驚いている間に、そのカヤネズミはオギの茎を伝い下りて草むらの中に姿を消してしまった。一瞬の出来事に、私の胸はしばらくドキドキ高鳴っていた。逃げたカヤネズミはもっとドキドキしていたに違いない。
それから、さらに2個の巣を見つけた後のこと。4メートルぐらい先のオギの葉影に小さな茶色のものが動いている。あ、またしてカヤネズミ! 最初に出会ったカヤネズミよりも少し動きが遅く、葉と葉に足をかけ四つんばいになりながら、ゆっくり移動している。少しぎこちなく見えるその動きがなんともかわいい。きっと幼獣に違いない。こちらに気づいているのか、いないのか……。とにかくこちらはじっと動かずに約3分間、生茂る葉の隙間からその姿を観察することができた。
約1時間の短い調査の間に3匹ものカヤネズミに出会えるなんて、なんとラッキーな日だったのだろう。この幸運は、どうも日食がもたらしたものらしい。調査の途中、欠けた太陽こそ見えなかったものの辺りがすうっと薄暗くなり、日食が起きていることをはっきり感じることができた。東京で太陽が欠け始めたのは9時55分。カヤネズミ調査を始めた11時10分は、食の最大を迎える3分前に当たる。調査を終えた12時10分から20分後が食の終わりとなっている。カヤネズミにしてみれば、日が暮れ始めていつものように動き出したら思ったら、あっという間に朝が来てしまったという感じなのだろう。その短い「夜」に偶然調査をしていたとは、本当に幸運だ。26年後の日食にもぜひ調査に出てみたいと思う。○○才+26=?? もしかして、杖を片手にカヤ原を歩いているかもしれないが……。
(カヤネット会員・辻淑子)
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